
「酔ってるの?あたしが誰かわかってる?」「ブーフーウーのウーじゃないかな」
さてこれは何でしょう?そう訊かれてすぐに答えられる人は少ないと思います。では声に出して読んでみてください。職場でこのブログを見ている方は隣の人に気づかれないような小さな声で。文章の意味はよくわからないけど何だか心地いいリズムじゃないですか?そう、これ短歌です。作者の名前は穂村弘。1986年に『シンジケート』で角川短歌賞で次席を取ってデビューした人です。その時の受賞者が俵万智ですから、その年は短歌の世界にとって重大なターニングポイントになった年だったと思います。
穂村弘の作風はいうなればポップ短歌、ゆえに評価も賛否両論真っ二つに分かれます。前衛的だからこそさっぱり理解できないものも確かに多いのですが、優れたものはその短歌の背後にある世界が豊かなイメージとして読むものの頭に浮かび上がってきます。いくつか僕が気に入った短歌を紹介していきましょう。
体温計くわえて窓に額つけ「ゆひら」とさわぐ雪のことかよ
ワンルームマンションに同棲する恋人同士でしょうか、おそらく雪が降るのが珍しい土地のある冬の日の朝のことでしょう。言葉はわりと具体的で僕らが普通にイメージする短歌という感じをまだ残しています。
外からはぜんぜんわからないでしょう こんなに舌を火傷している
自分の内面を理解してもらうこと、あるいは他人の内面を理解することは常に困難がつきまといます。こちらはほとんど現代会話文といっていいものですが、一方で短歌や俳句の定型にとらわれない自由律の影響を受けた歴史的なものでもあります。それでは最後に一つ。これは賛否両論分かれそうですが、言葉の組み合わせが面白いです。
眼をとじて耳をふさいで金星がどれだかわかったら舌で指せ