![]() 以前にも書きましたが読書会というものに毎月参加しています。今月の課題書は僕の推薦で田中小実昌の『ポロポロ』でした。この田中小実昌は7年前に亡くなった作家で、1990年前後はテレビやCMにも出演していたみたいです。YouTubeに出演していたCMの映像がありましたので参考までに。 http://jp.youtube.com/watch?v=QAwhXyz4w1c 左の人が田中小実昌ですが、僕も何となく見た記憶があります。何となくとぼけた感じのおじさんですね。 さてこの『ポロポロ』は作者の代表作とされます。個人的には表題作の「ポロポロ」が最も好きなのですが、読書会でも一番話題になったのがこの作品でした。作者の父親が牧師をしていた独立教会を舞台にした短編になります。その教会は十字架もなく祈りの言葉も決まっていない、いわば異端の教会なわけですが、そこに集まってくる人たちは言葉にならない祈りを呟いたり叫んだりしているのです。それを作者は「ポロポロ」という不思議な言葉で表現しています。平易な言葉を使いながら、極めて多義的な世界がそこでは描かれています。さきほどのCMと同じく、文体もああでもないこうでもないといった千鳥足のような感じで、ちょっとふざけているのかなとも最初は思えるかも知れませんが、しかし読み込んでいくと、そうした印象が擬態に過ぎないことがわかります。 ある出来事を言葉で伝えるということは、どこかに話を面白くしようという脚色が入ったり、記憶が微妙に違っていたりして、出来事の原初の状態とはどこか違うものになってしまうものですが、通常我々はそのことにあまり気にせず人に伝えてしまうものです。それに疑問を感じて間違ったことを伝えるのが嫌ならば、人は沈黙するしかありませんが、そうした思いを持ちながら、それでも小説を書いて人に伝えたというところに田中小実昌の面白さがあります。彼は「俺はいま嘘をついているのではないか」という疑いを常に持ち続け、なおかつ小説を書き続けたのです。それは小説を書くということ、言葉で何かを伝えるということに対してとても真面目でなければ出来なかったことでしょう。 |